おしらせ

プロジェクト研究成果報告

2020/09/28

2018年に当法人より研究助成を受けた渡辺尭仁先生より研究成果(J Neurosurg Spine. 2019 Dec 17;1-9.)報告です。

研究テーマ
80歳以上の高齢者における脊椎手術の周術期・術後合併症他施設前向き研究

当グループにておこなった多施設研究がこの度Journal of Neurosurgery: Spineに掲載されましたため、その研究成果をご報告します。近年では80歳を超える高齢者に脊椎(背骨)の手術を行うことも増えており、脊椎手術全体の1割を占めると言われています。しかしながら高齢者の脊椎手術合併症の発症率や、その危険因子については明らかにされていないのが現状であり、本研究では80歳以上の高齢者に対する脊椎手術における合併症発生率を多施設・前向きに調査しました。結果としては、高齢者に対する脊椎手術の安全性を示すことができ、今後、高齢者の脊椎疾患の治療方針を決める際に役立つ興味深い知見が得られました。

【対象と方法】 北海道内7施設において、2017年1月1日から12月31日に施行した脊椎手術のうち、 外傷・感染・腫瘍に対する手術を除いた 80 歳以上の全症例を対象とした。調査期間内に2,847例の脊椎手術が施行されており、うち270例(9.5%)が本研究に該当した。男性109例、女性161例、平均年齢は83.2歳であった。手術因子(手術時間、出血量など)、術中および術後30 日以内に発症した周術期合併症、および術前の患者因子を調査し、合併症の詳細および合併症発症の危険因子を検証した。術前の患者因子としては年齢の他、術前の併存症、全身状態、日常生活動作 (activity of daily living: ADL)、サルコペニア(筋肉量の減少)の有無、及び栄養状態を調査した。手術因子・術前患者因子と、全身合併症の発症リスクについて統計学的に解析した。

【結果】
手術は頚椎手術が32例、胸椎手術が 9 例、胸腰椎−腰椎手術が231例に施行されており、術式は除圧術が106例、インプラントを用いた脊椎固定術が132例、経皮的椎体形成術(Balloon Kyphoplasty: BKP)が32例であった。手術時間は平均119.8分、出血量は平均 146.2 mlであった。周術期合併症は20.0%に生じており、手術部位合併症は8.1%、軽症全身合併症は14.8%に生じていた。しかしながら、重症合併症の発症は1例も見られず、周術期死亡例も無かった。また再手術も4.1%と少数のみであった。軽症全身合併症は、貧血が7.4%、せん妄が6.3%、尿路感染症が2.6%であった。術前患者因子は比較的良好な患者が多数であった。統計解析を行なった結果、術前のADL低下、脊椎固定術、3時間を超える長時間手術が軽症全身合併症と関係していた。

【考察】
本研究は80 歳以上の高齢者の周術期合併症を多施設・前向きに報告した初めての研究である。合併症発症率は20%と比較的高かったものの、治療経過に大きな影響は及ぼさないもののみだった。これら軽症全身合併症発症の危険因子はADLの低下、脊椎固定術、長時間手術であった。一方で、本研究の重要な知見としては、重症全身合併症が生じず、周術期死亡例も見られなかったことである。再手術率も4.1%と低率であったことから、80 歳以上の高齢者に対する脊椎手術の安全性が高いことが示された。

 



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